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▶︎「柴燈大護摩法要」を終えて 1

大勢の山伏が、豪快に炎をあげて柴燈護摩供養を行っている最中、とても感動する出来事がありました。
その話をご紹介します。

お寺の外の道路の向こうから、行事の様子をじっと見つめている80歳半ばのご婦人がおられました。
その姿に気が付いたお寺の関係者が、そばに近づいて「よろしかったら、どうぞ中に入ってご覧下さい」と声をかけたところ、笑顔一杯になって歩きかけたのですが、足が悪くて歩くのが大変苦しそうでした。そこで、手を繋いでゆっくり境内にご案内して、椅子に座ってもらったそうです。聞くと、そのご婦人は若い頃に、マラソンやっていたそうです。しかもオリンピック候補になるほどの実力あるランナーで、大きな大会で活躍されたとのこと。その健脚が、 高齢になられて歩くのさえ困難になるとは思っても見なかった事だろうと思いながら、興味深くお話を聞いたそうです。

以上は、私がこのご婦人に驚く前の事の事で、後から聞いた話です。ここからは、私が実際に見て感動した光景に移ります。

護摩が大きな炎で燃えた後、いよいよ「火渡り」が始まりました。希望される大勢の人達が順番に火の道を渡ります。すると、80歳半ばの足の悪いご婦人が、「ぜひ、私も渡らせて下さい」と申し出たのです。後から分かったのですが、先の若き頃、名を馳せたマラソンランナーのご婦人です。

それを聞いた山伏は、「とても無理だ」と思ったそうですが、真剣に訴える眼差しを見て、心を打たれ、「一緒に渡りましょう」と、二人の山伏が両脇をかかえて渡る事になりました。

火の道を、二人の山伏に抱えられるようにして歩く光景に、回りを取り囲んで人々は皆、感激した様子で「頑張って!」「もうすぐですよ」と応援し始めました。私も思わず手を合わせて、心の中で「このご婦人の足が治りますように」「老後の日々が幸せてありますように」と、不動明王に真言を唱えながら祈願いたしたした。

無事に渡り終えたご婦人に、どうでしたと聞くと、満面の笑顔で「熱かった」と一言。その一言に、山伏に助けられながらも、自分の足で歩き遂げた達成感の深さを感じました。

杖をついても歩くのが大変な人が必死になって頑張り、大きな挑戦して、成し遂げたのです。どのような願いがあって決心したのか、どのような深い想いがあったのかは分かりませんが、このご婦人の気持ちは、「不動明王に確実に届いた」と、私は確信しました。これからは、きっと不動明王がこのご婦人を助けてくれると思います。そのご婦人を支えて火の道を渡った山伏は、「あの方が懸命に足を前に出そうとしているのが、支えている私の手から全身に伝わって、感動で一杯になりました」と、私に話してくれました。見ていた私の気持ちも一緒でした。渡り終えたご婦人に、「どうか、いつまでもお元気で幸多い日々でありますように」と、心で唱えながらお見送りをいたしました。

後から聞いた話ですが、同じように足の悪い高齢のご婦人が、火渡りに挑まれたそうです。そのご婦人は、行事が始まってから、ずっと手を合わせて口の中で何か唱えていたそうです。そして、火渡りが始まり、火の道を渡る人々を眺めていましたが、我慢しきれず、思わず「私も渡りたい!」と気持ちが口から出てしまいました。それを聞いた若者が、「私が支えます。一緒に渡りましょう」と声をかけ、いきなり靴下を脱ぎ始めました。その若者はご婦人を抱き抱えるようにして火渡り場に行き、まるで親孝行をしているように一緒に火の道を渡ったそうです。

お二人の高齢のご婦人は、千光寺で柴燈護摩供養が行われる事をどのようにして知って、千光寺に来られたのか分かりませんが、どうしても参加したいという強い気持ちで来られたに違いありません。そして、私が主導して、大勢の山伏が古式に則って不動明王に祈り、参加者の願いを祈願する様を見ているうちに、無理を承知で「私も火渡りをしなければ」と心が動いたのだろうと思います。空海の真言密教は、こんなにも人々の心を動かす法力があるのです。お二人のご婦人は、思いもしなかった修行を体験され、感謝一杯の気持ちで千光寺からご自宅に帰られたと思います。
本当に有難い事です。

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